シンスプリント(MTSS)とは?
シンスプリント(Medial Tibial Stress Syndrome:MTSS)は、足関節底屈筋群の過使用や、硬い路面でのランニング・跳躍動作を繰り返すことにより、すねの内側(脛骨後内側)に痛みが生じる障害です。
研究では、競技復帰まで平均102~118日を要すると報告されています。
一方、当院の治療実績では以下のような傾向がみられます。
- ① 治療(週2回)+完全休養:完治まで約60日
- ② 治療(週2回)+練習量の調整:完治まで約90日
- ③ 治療(週2回)+通常練習継続:予後不良となるケースが多い
シンスプリントでは、治療内容とあわせた運動負荷の管理が回復期間と予後を大きく左右します。
症状と病態
シンスプリント(MTSS)の主な症状は、
走る・跳ぶなど体重がかかったときに、すねの内側(脛骨後内側の中央あたり)に沿って痛みが出ることです。
また、同じ部位を押すと強い痛み(圧痛)を感じるのも特徴です。
病態(体の中で起きていること)としては、
- すねの骨を覆う膜(骨膜)に炎症が起きている状態
- 繰り返しの負荷により骨膜が厚くなる
- 骨の表面(皮質骨)がダメージを受け、骨の密度が一時的に低下する
といった変化が組み合わさって痛みが生じます。
つまりシンスプリントは、「使いすぎ」によってすねの骨とその周囲に負担が蓄積した状態です。
障害発生メカニズム
シンスプリントの発症メカニズムには、主に次の2つが関与します。
① Traction-induced(牽引誘発)
後脛骨筋・長趾屈筋・ヒラメ筋が、下腿筋膜を介して骨膜や皮質骨を繰り返し引っ張ることで発症します。
特に歩行・ランニングの立脚後期では、これらの筋が足関節底屈に働き、患部に牽引ストレスが集中します。
また、立脚初期には後脛骨筋が足関節の過度な外反を遠心性収縮で制御しており、この負荷も発症要因の一つと考えられます。
② Tibial bending(脛骨弯曲)
体重がかかった際に脛骨がたわむ(弯曲する)ことで、脛骨中央~遠位1/3に圧迫ストレスが加わり発症します。
まとめると
- 立脚後期:底屈筋群による牽引ストレス
- 立脚初期:後脛骨筋による外反制御の負荷
- 荷重時:脛骨のたわみによる圧迫ストレス
これらが重なり合って、シンスプリントは発症します。
シンスプリント(MTSS)と
下肢アライメントの関係
シンスプリントの障害発生メカニズムは、下腿の筋・骨だけでなく、体幹や股関節の動作パターンも大きく関与します。
荷重動作時の体幹・骨盤・足部のアライメントが乱れることで、脛骨にかかる機械的ストレスが増加します。
① 股関節外転筋・体幹筋の弱化
(Traction-induced〈牽引誘発〉メカニズム)
片脚荷重時に骨盤が非支持側へ傾斜し、重心線が支持脚の内側へ偏移します。
その結果、
- 股関節:内転・内旋
- 膝関節:外反
- 足部:回内、内側縦アーチ低下
が生じます(内側縦アーチが10mm以上低下すると発症リスクは約1.99倍)。
この運動連鎖に対し、内側縦アーチを支える後脛骨筋・長趾屈筋が過剰に活動し、下腿筋膜を介して骨膜・皮質骨に牽引ストレスが加わります。
② 股関節外旋筋の弱化
(Tibial bending〈脛骨弯曲〉メカニズム)
股関節外旋筋群の筋力低下により、着地時の床反力(垂直成分)が増大します。
その結果、膝・股関節での衝撃吸収が不十分となり、荷重時に脛骨がたわんで中央~遠位1/3に圧迫ストレスが集中します。
特に深層外旋六筋が弱化すると、着地時に膝が内側へ入りやすくなり、シンスプリントだけでなく膝障害(例:鵞足炎)のリスクも高まります。
まとめ
シンスプリントは、
- 体幹・股関節の筋力低下によるアライメント不良
- それに伴う牽引ストレスと圧迫ストレスの増加
が重なって発症する障害です。
シンスプリント(MTSS)に効果的な治療法
主にストレッチ・筋トレ・物理療法を組み合わせて行います。
- ストレッチ
筋緊張による牽引力を緩和する目的で、
後脛骨筋・長趾屈筋・ヒラメ筋を含む足関節底屈筋群を中心に実施 - 徒手的アプローチ
下腿筋膜の緊張緩和 - 筋力トレーニング
下腿底屈筋群、特に後脛骨筋・長趾屈筋を重点的に強化 - 物理療法
高周波・超音波・干渉波による鎮痛と回復促進
整形外科へ転医するケース
- エコー検査で骨折が疑われる場合
- コンパートメント症候群が疑われる場合
※詳細はさいとう整骨院までお気軽にご連絡ください。
